台風とウサギ
10月09日、台風22号が東京を直撃しました。
台風通過直後、雨が弱まったのでクリーム隊長のおトイレに出かけました。トイレを家でするようにしつけられなかった私の大失敗です。 隊長は誕生日に買ってあげたレインコートもばっちり着込んでいざ外へ。隊長と多摩川の土手まで歩いていきました。
多摩川の土手の上にはサイクリングロードが設けてあり、階段を下りていくとグラウンド、そして多摩川の河川になっています。しかし今日のグラウンドは増水した水で見えなくなっていました。土手の階段の下は川!という感じでした。
私はある人が心配になりました。今日はその方の話を書きます。
その人の名前はナカムラさんと言います。ナカムラさんは大きな柳の木の かたわらに住んでいます。ナカムラさんは動物が好きで、昔は猫やシベリアンバスキーを飼っていたそうです。
ある日、お散歩の時にナカムラさんに出会いました。ナカムラさんはクリームを見ると、ひざまずいていてクリームを撫でました。
「犬は人間が立ったままだと警戒するんです。こうして背を低くして接してやると安心します。動物は純粋なんです。話さなくったって全部気持ちは通じるんです。」
そして最後に「分かっていないのは人間だけですよ。」とおっしゃっていました。
ナカムラさんは捨てられたウサギを飼っているそうです。仕事で数日留守にする時は近所の知り合いにウサギを預けて仕事に行くそうです。ナカムラさんはウサギを大切に世話しているようでした。
私はウサギの名前を聞きました。
「へぇ、で、名前は何ていうんですか?」
「あ、ワタシ、ナカムラといいます。」
私はきょとんとしてしまいました。ナカムラさんはウサギじゃなくて自分の名前を答えてしまったのです。ナカムラさんはクリームにも、「ナカムラです、よろしくね」と言っていました。
ナカムラさんは多摩川の川べりに掘っ立て小屋を作って住んでいました。時代が変わって、かつてナカムラさんがされていた仕事は機械がするようになってしまった、と話していました。
後で改めてウサギの名前を聞くと、ナカムラさんはそのウサギの名前を「捨て五郎」と教えてくれました。ウサギや犬やニワトリを捨てていく人がたくさんいる、悲しい事ですね、と言っていました。
でも話しているうちにウサギの名前は「捨て五郎」 から「捨て次郎」に変わりました。
ナカムラさんはウサギに名前なんてつけていなかったんです。
私たち犬を散歩する人間の多くは、飼い主の名前を全く知らないのにペットの犬の名前や性別はお互いよく知っているという事が多いですよね。
私はナカムラさんがウサギではなくご自分のお名前を答えてしまった事を笑ってはいけないような気がしました。それがナカムラさんとの出会いの思い出です。それ以降お会いする事はなく話をしていません。
ナカムラさんとウサギが無事ならいいんですけど。