クロイツェルソナタ
クロイツェルソナタって、音楽と小説の二つがあります。一方はベートーヴェン、一方はトルストイです。私は昔ヴァイオリンを習っていました、と言っても幼少期から習う英才教育じゃなくて18歳の時初めてヴァイオリンを手にしました。
高校三年生・18歳と言えば皆が競って自動車教習所へ通い、余裕のある家庭では親が子供に車を買って与える時期でした。まぁ甘やかしとも思えますが、当時私が住んでいた片田舎ではそういう子供が少なくはありませんでした。(車がないとどこにも行けない様な不自由な場所でしたから、少なくとも免許を取りに行く事などは当たり前の事でした)
私の家も片親ながら母は頑張ってその資金を用意していてくれていました。でも私は教習所通いをしませんでした。「図書館も無いような小さな町には住みたくない」と思っていたのを今だに覚えていますが、とにかくこの町を出ねば…という思いでしたから、免許証も車も必要ないと思っていました。
されどすねかじりだった隊長の部下は、教習所の代わりにヴァイオリンを買ってもらう事と少しばかりレッスン料を出してもらう提案をしました。(悪く言えば脅迫。お母さんゴメンナサイ。笑)
それからヴァイオリンを死ぬほど勉強して練習しました。私は人に従うのをことごとく嫌う協調性の無い人間でしたからレッスンに通うなんてかなり無謀な挑戦でしたが、唇かみ締め基礎を練習し、動かない手首と指の訓練をしました。
そんないきさつでヴァイオリンを始めましたが、ヴァイオリンよりもっと前から読書が好きでした。トルストイの短編小説に「クロイツェルソナタ」という小説があります。ヴァイオリンのCDを探している時、偶然同じ題名のCDを見つけました。ベートーヴェンのクロイツェルソナタです。
どっちが先に世にでたかというと、ベートーヴェンです。(ご存知の方は両者の生存していた年代が違うので一目瞭然ですが) トルストイの小説クロイツェルソナタは、ベートーヴェンのクロイツェルソナタに感銘を受けて書かれたと言われています。
どんな小説かというと、とっても陰鬱な小説です。(まぁトルストイですからね) 妻を嫉妬心により殺した男が偶然列車の中で出会った他人に"殺害に至るまでの経緯"を事細かに語る小説です。ストイックだったトルストイならではの狂気です。
ヴァイオリンを習うまでは小説クロイツェルソナタしか知りませんでしたが、ヴァイオリンを習ってからその起源であるベートーヴェンのクロイツェルソナタに出会い、両者がやっと合致したような気がしました。
それから10年以上たちますが、たまにベートーヴェンのクロイツェルソナタを聴いています。私にとっては望郷の曲です。クラシックの好きな方はベートーヴェンを、小説が好きな方はトルストイのそれを楽しんでみてはいかかでしょうか。